「50歳からの英語」
 英語を話せるようになりたい。一念発起し張り切って始める方は多いのですが、途中、それもほんの入り口であきらめる方のなんと多いことか。残念です。
 一番の原因はヒアリングです。この、聞いて理解する。という英語の技能が実は一番厄介なのです。こればかりは机上の勉強法は皆無で、場数を踏んで慣れるよりほかに手は無い。というのが私の持論です。この技能の獲得がいかに大変かという一例を挙げますと、皆様も良くご存知のNHKの女性アナウンサーが父親の仕事の関係で小学校4年から数年間英国で暮らすことになった時、最初の2年間は何も理解できず大変苦労なさったという話を聞きました。この方は大変利発で活発な方で今では英語を何の不自由もなく操っておられます。もし小学一年生のときに英国に行かれていればそんなに苦労はなさらなかったはずです。

 ですから50歳を超えてからの挑戦は如何に大変なものかを最初に肝に銘じていただきたいと思います。とはいえ年の功は恐ろしいもので非常に勘の働きが良くなっていますので、かなりの部分を補ってくれます。この勘を養ってくれるのが洋画です。何よりも楽しみながら出来ます。私が最も愛用したのが「南雲堂版英和対訳シナリオシリーズ」。サウンドトラックテープ付きという優れものでした。「第三の男」、「西部戦線異常無し」、「オセロ」など今すぐリバイバルしてほしい教材です。一つの映画を見尽くすことで会話を学び、その国を探索し、風物を楽しみ、庶民の生活を共に出来ます。いまのSF、ホラー、暴力、戦争映画のような一過性の楽しみではない豊かな時間を過ごし感性を養うことが出来るのです。いまはAV機器の発達で自分でライブラリーを構築する楽しみもあります。テープを聴いて聴いて、聴き尽くせば自分でディクテイトも出来るようになります。それではこの作品を見ずに映画を語れないといわれた世界映画史上不朽の傑作「第三の男」の世界を皆様と一緒に楽しみたいと思います。

 この映画で初めて出会った楽器、タイトルバックを横切って白く光るツィターの弦から迸りでる、一度聴いたら決して忘れることの出来ない旋律で一躍有名にになった、アントン・カラス。英国一流文学者グレアム・グリーン書き下ろしの小説を、自ら脚色、「邪魔者は殺せ」、「落ちた偶像」などで知られる名監督サー・キャロル・リード。光と影を心憎いばかりに表現しきったロバート・クラスカー。豪華なキャストについては一度にはご紹介しきれないのでその都度、順を追って紹介します。
 舞台は戦後間も無いウイーン。雪に覆われたシュトラウスの銅像、木立につつまれたベートーベンのスタチュウ。典型的なイングリッシュアクセントの解説が入る。

 これは今でも諳んじている。
I never knew the old Vienna before the war, with its Strauss busic, its glamour and easy charm. Constantinople suited me better.
"コンスタンチノーブルのほうが肌に合う"。こんな表現法をこのときに覚えた。
I really got to know the...classic period of the black market.
"この闇市がクラシック ピリオドだったころ"。このところが私の知るclassicからはピンとこなかった。英国人の友人によれば"ウィーンの闇市が栄えていたころ"、すなわち"ウィーンが闇市で有名だったころ"ということで決着。
 I was going to tell you, wait, I was going to tell you about Holly Martins, an American. Came all the way here to visit a friend of his. The name was Lime. Harry Lime.
Martins was broke and lime had offered him some sort of, I don't know, some sort of job. Any way, there he was, poor chap, happy as a lark and without a cent.
 ここで獲得した表現はbroke"文無し"とhappy as lark"雲雀のように陽気に"日本語にゆう"能天気"にぴったり。
 今でもこの言葉を聞くとJosephs Cotton演ずるところのHolly Martinsがコンパートメントの扉をあけてホームに降り立つシーンがまぶたに浮かぶ。

 ここでジョセフ・コットンについての思い入れを少し。
 最近惜しくもあの世に旅だったグレゴリー・ペックと共に戦争中に華やかに売り出された2枚目。さらりとした中年男の魅力を秘めたスターとして女性ファンの人気をさらう。この「第三の男」あたりから渋い性格のスターとして活躍。この映画で競演しているオーソン・ウェールズ監督の「市民ケーン」で映画にレビュウに息の合ったところを見せている。オーソン・ウェールズ演ずるハリー・ライムは映画の前半では姿を見せない。ホリーにどんな職を世話をしたかも分からずこの映画は始まり、意外な展開と結末を迎えるまで一気に突き進む。英語のパンドラはあけてもあけても底が見えないほどの豊かさで迫ってくる。
 そのあたりは次回で。





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